法橋は,中医看護学[Chinese medicine nursing]は“ひと(家族員)の全身状態を総合的に診断し,体質と環境の改善によって,症状の緩和,病いの予防,治療,養生を可能にする実践科学”と定義している.法橋は,中医看護学を新しい学問として提唱している.今後,中医看護学の理論,実践,教育,研究の基盤を構築することが急務である.
中医看護学では,ひとを食事,運動,こころ,休養,環境からとらえる.環境には,衣食住,家族を含む人間関係などが含まれる.具体的には,伝統中国医学[traditional Chinese medicine,TCM]の基礎理論にもとづいて,脈診や舌診などにより全身状態を総合的に診断する.体質と環境の改善のメソッドは,経絡ツボ療法,吸い玉療法,食事療法(薬膳指導など),運動療法(太極拳など),サウンド治療,芳香療法などがある.心身の自然治癒力が高まることで,症状の緩和,病いの予防(未病を治すこと),治療,養生(セルフケア)を可能にする.
中医看護学が取り入れられている保健師助産師看護師養成所は限られているが,中医看護学の知識,技術,思想は,現代の看護学に不可欠である.中医看護学には,健康で幸せに生きるための生活の知恵が含まれており,エビデンスをつくりにくいという特徴がある.五感を駆使しながら家族員/家族の全体をみるという点で,和漢薬と看護は親和性が高いといえる.
家族を対象とした看護学は,古くはナイティンゲールの時代から存在していた.ナイティンゲールは,看護における家族と家庭環境の重要性に気づき,家庭での健康増進活動の実践を論じ,家族全体を対象とした看護実践を行うように指示していた.これは,家庭環境を含めた環境を整える中国医学の治療と養生に類似している点が多い.
たとえば,中国北京中医薬大学での中医看護学では,中国医学を取り入れた看護学教育を行っており,とくに伝統診断法のひとつである脈診を重視している.さらに,按摩,鍼灸や抜罐療法(吸い玉療法)で経絡を刺激し,血流の改善や,薬膳師との連携により体質に合わせた食事提供が行われ,中国医学の知識と技が日常の看護に浸透している.
家族支援専門看護師はケアとキュアを行うが,法橋は,とくに中医看護学の臨地応用に着目している.中国からの影響を受けている日本では,中国医学がもつ医学理論も生活様式に浸透しており,家庭環境において受け入れやすいものが多い.家族員の体質を考慮し,自然治癒力を重視する中医看護学は,たとえば,新型コロナウイルス感染症の予防・治療にも有効である.今後,看護職者にとって,中医看護学の理論と実践が不可欠な時代になると予測している.